恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
谷口は誤解の中にある願望を押し隠すように、乙女のポーズを解き、腰に手を当てて古庄を睨みあげた。
「いや、それは、…すまない。だけど、教えてくれないかな?指輪の買い方…」
古庄が小さくなりながら訊き直すと、谷口はその言葉の意味を考えて、目を瞬かせた。
「…何?古庄先生、また結婚するの?」
「『また』って…!俺は今まで一度も結婚なんかしたことないぜ」
真琴と結婚していることは知られていないはずだから、谷口の認識では古庄はまだ独身者のはずだ。
「そうか、式の直前でやめたんだっけ…。でも、その時に指輪を買った経験があるでしょ?」
「…それが、俺は買いに行かなかったんだ。前の時は全部任せてたし…」
「ふーん、じゃ、相手の人はサイズとかどうしたんだろうね?」
「サイズ?」
「指輪はサイズが合ってないと。大きすぎてもすぐ抜けちゃうし、小さすぎても入らないし」
「…なるほど。そのサイズって、どうやって測ればいい?…できれば、本人に知られないように…」
真琴の思考を想像するに、古庄が「指輪を贈りたい」と言っても、結婚を秘密にしなければならない以上、真琴が「いらない」と判断するのは歴然としている。