ふわふわ。
茶柱
今日も残業中。
私は要領が悪いのか、運が悪いのか、いったいどちらなんだろ。
この際、私は「頼みやすい人」と、言うことにしてしまおうか。
就業時間もとっくに過ぎて、残っていた人たちが一人減り、また、一人減り。
誰もいなくなった部署の電気は消されて、多少薄暗くなったいつものフロアはそれだけで異空間。
思えば、ここまで手こずる残業も初めてかもしれない。
打ち込みを続けていた指先が疲れてきたし、目がパシパシしてきた。
ああ、眼鏡を持ってくればよかった。
長時間の打ち込みに、コンタクトレンズは少々過酷。
目薬を差そうと手を止めて、そう遠くはないデスクの方から、同じようにキーボードを打ち込む音がするのに気がついた。
時計は23時過ぎをさしているのに、まだ誰かが残っている。
少し癖のある髪に、冷静沈着で整った横顔。
いつもより男らしく見えるのは、たぶん珍しくネクタイを外して、ワイシャツを腕捲りしているせいだろう。
女子社員からは鉄仮面と呼ばれる倉坂さんが、相変わらずの無表情でキーボーを叩いていた。
……私、あの人苦手だ。
思いながら、目薬を引き出しから取り出して両目に差すと、こぼれた滴をティッシュで押さえる。
まぁ、話しかける訳でもないし、話しかけられる事もないだろう。
それよりも、まず、書類を終わらせて終電に間に合うかの方がはるかに大切な事だ。
分厚い書類の束を眺めて、凝った首をマッサージする。
……無理かも。
効いてしまった軽いマッサージと時計、それから書類を交互に見て溜め息をつく。
これを終わらせて、ガタゴト列車に揺られて帰るのは気が進まない。
かと言って、タクシーは論外。
それなら、近くの温泉付きのビジネスホテルに泊まった方が安くつく。
さて、どうしよう。
そんなことを考えると、保っていた集中力の再構成が難しくなった。
一度切れてしまった集中は、なかなかもとには戻らない。
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