ふわふわ。

倉坂さんの隣に、運がいいのか悪いのか、困り顔のお嬢さん。

話した事はないけれど、確か営業の新人だったかな。

まぁ、入社から半年も経てば“新人”とも言えないけれど。

さまよい出した視線の先には、たぶん営業の先輩たち。

……無言でガッツポーズって?



「く、倉坂さん。唐揚げをとりましょうか!?」



……何だか始まった。

対する倉坂さんは、無言で彼女を見て、それから静かに首を振る。

「食べたい時には自分で取りますので、お構い無く」

…………。

うーん。
たぶん試練だろうな。

普段から、こういう場に現れない先輩の接待出来ればOKて、そんな感じかな?
営業は話してなんぼって所があるしね~。
でも、相手は鉄仮面だし。


「ビ……ビールおつぎしましょうか?」

いやいや、倉坂さん飲んでるのビールじゃないし。


「結構です。自分のペースで追加しますので」

……でしょうね。


「じゃ、じゃあ、追加を頼みますか?」

いや。
まだ一口くらいしか飲んでないし。

君、緊張しずぎじゃないかな?

倉坂さんも、何かに気づいたのか、彼女と離れた場所に座る営業のメンツを見比べ始めた。


「大変ですね」

「はい! あ、い、いいえ!」

顔を真っ赤にしたお嬢さんは、なかなか頑張り屋さんみたい。



「倉坂さん。何を飲んでいるんですか?」

そんな会話を落としてみたら、渦中の二人が私を見た。


「ウーロン茶です」

「ここのウーロン茶は飲める方ですよね。たまに出涸らしみたいなのとか、濃すぎる店があって、びっくりします」

「ああ! 解ります~。酔いざましに頼んだら、変な味のウーロン茶ってありますよね~」

キラキラモードのお嬢さんが加わって、倉坂さんは私をチラッと見る。


いい大人なんだから、付き合ってあげるのも所属は違えど上司の役目だと思うのね。

だって、貴方補佐と言えども主任だし。
< 15 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop