ふわふわ。
「そーねー。倉坂は、同期内だと“策士”か“越後屋”って言われてるわね」
「策士と、え……越後屋?」
咲良さんはワインを飲みながら、コクコク頷いている。
「どっちも、なに考えてるか、腹の底が見えないって意味ね。いい大学出てるし頭はいいはずよ。IT企業の内定もあったみたいだけど、初めに内定くれたからって、うちの会社に決めたらしいわ」
……このご時世に、職を選べるとは。
「後はそーねー。けっこうあからさまにアンタの事を追っかけまわしてたと思うんだけど」
「え。そんなことないですよ」
「そう? 夜に会社近くのレストランに二人で入って行ったって噂があるけど」
あ、あれはたまたまで。
「誘われても断るのが倉坂だから、ランチすら一人で食べてるような奴なのに。夜に、しかも女子社員となんて目立つ目立つ」
「た、たまたま残業してたのが倉坂さんと二人で。お腹がすいたから買い出しに行こうとしたら誘われて……」
「誘うって事が、すでにすごいじゃないの」
まあ、私も幻かと思ったし。
咲良さんはサラダのプチトマトを避けながら、難しい顔をする。
「あとは~。差し入れの時にアンタの好みを熟知してるみたいじゃない?」
え。
それは、あれかな。
私だけミルクティーだった件かな。
「あ、あの……」
「アンタが他の男と話してたら、さりげなく割り込まれるってのも有名ね」
えーと。
なんだか、見に覚えがあるような、ないような。
「アンタはあまりにも鈍いし、一応、倉坂は同期の中でも唯一の友達だし、協力してあげる事にしたの」
「え? 協力?」
「遅くなりました」
ほとんど同時だった。
咲良さんがニヤリと笑うのと、肩に手を置かれたのは。