ふわふわ。
「どうしてそうなるの。どこをどうなったら、そんな話になっちゃうの?」
「え。だって、山根さん。打ち上げの時に物怖じせずに倉坂さんと話してたじゃないですかー」
「それは……そうでしょ。話しかけたら怒られる訳でもないし。普通でしょう」
「それに、打ち上げ終わった後、キスしてたって噂ですけど?」
堺さんがちらりと手帳から視線を上げ、可愛らしく小首を傾げるけれど。
なんて言うか、色んな人の視線もチクチク感じるけれど。
って、
……キス?
「してないしてないしてない───!! 確かに帰りに話はしてたけど、それだけの話で、手も触れてすらいないって!」
「え~? 倉坂さんを落とした女性って、山根さん有名人ですよ~」
「ないないない。そんな話は……」
「まだ無いです。残念な事に」
背後から聞こえてきた低い声。
ざわついていた休憩室が、気がつけば静まり返っていた。
…………なんて言いますか。
なんでこの人は、背後から忍び寄るようになったんだろう。
「く、倉坂さ……」
「はい。なんでしょう?」
ガバリと立ち上がると、お箸片手に倉坂さんを見上げる。
「なんでしょう、じゃありませんから。まだ無いですって、誤解されるような言い方は止めて下さい」
「でも、僕が山根さんに言い寄っているのは事実でしょう?」
しれっと無表情に何を宣うんだ、この人は!
「ですから、そういう噂であれば、僕は大変喜ばしいですが?」
「私は喜ばしくないです!」
「きゃーっ! 倉坂さん、告白してるんですか? したんですよね。そうなんですね?」
ウキウキ聞いてるけど、堺さん、それは違うの!
「告白なんてされてません!」
「じゃ。何て言われたんですかー?」
「言えません!」
言えるものか、まさか……
「あわよくば、お持ち帰りしようと思ってた旨をお伝えしました」
なんでこんな時だけ、ノリノリに語ってるの!