ふわふわ。
「お疲れ様~。やっと会議終わったよ。残りどれたけ~?」
咲良さんが居残りメンバーに進捗を聞いている間。
私は倉坂さんに、出来上がったレジュメを渡しに行く。
「ありがとうございま……」
受け取ったレジュメに違和感があったのか、倉坂さんの動きが一瞬止まる。
「確認して頂けますか?」
にっこり微笑めば、倉坂さんはすこーしだけ。
本当にすこーしだけ、上目遣いに私を窺って、レジュメをパラパラとめくりだす。
「…………」
「…………」
少し。
ほんの少しだけ、指示を守らず作られたレジュメ。
それを見終わって、倉坂さんの表情が微かに変わる。
「……さすがです」
わ……
笑っ……。
「惚れ直してもいいですか?」
「今は仕事中で、一言多いです」
憮然とする私に、少しだけ目が優しく笑ってる倉坂さん。
「ですが、仕事以外で話しかけられないではないですか」
「自業自得でしょう」
「確かに。噂の人に祭り上げるつもりは無かったのですが」
なんのつもりだったのか。
「少しは牽制になるでしょう?」
牽制?
無表情に戻った倉坂さんが、いつもの残業メンバーを見てから、また私を見上げる。
「他の異性に、横からちょっかいだされるのは、いささか腹に据えかねる」
「私はそんなにモテませんて」
「そういう事にしておきましょう。作成ありがとうございました。また、頼んでも良いですか?」
「いつでもどうぞ。だいたい、倉坂さんは一人でやりすぎですよ。任せられる部分は任せた方が効率的です」
無表情に肩を竦めた倉坂さんから離れて、デスクに戻った。