ふわふわ。
寒
営業の仕事って大変だよね。
割り振られた書類を整理しながら、マスクに栄養ドリンク、それからティッシュ片手の咲良さんを眺める。
あんな感じでも、この寒空の下で営業に回ってきた彼女は偉いよ。
でも、フロアもそんなに暖かくはない、事務職メンバーも足下には皆膝掛け持参だしね。
「寒波が来るらしいよ~」
暖か~いお茶を飲みながら、隣の席の田中さんがのど飴をくれた。
「山根さん。いつも残業だから、気をつけてね」
「いつもじゃないから。いつも皆、逃げちゃうからだから」
「だって、残業したくないもん」
私だってしたくないもん。
「彼氏と会う時間とか、なくなっちゃうもん」
「…………」
彼氏いないもん。
いなくても生きていけるもん。
「僕が立候補してます」
「女性の会話に割り込むのは失礼ですよ、倉坂さん」
田中さんの横には無表情の倉坂さん。
ぎょっとした彼女に、持っていた書類を渡す。
「お願いできますか?」
「つ、慎んで!」
いや、慎まなくてもいいと思います。
最近の倉坂さんは、書類作成を事務に任せるようになった。
最初は私ばかりに渡してきて、事務主任の牧野さんに睨まれて止めた。
それから、企画の方でも若干仕事を任されてピーピー言っている人が増えた。
……そう考えて、倉坂さんて仕事出来る人だったんだ、と気づいた。
全然、そんなイメージにはならないけれど、まぁ、確かに主任補佐だし。
仕事が出来ない人が、補佐とは言え主任にはならないよね。