ふわふわ。

「お先でぇす」

「お疲れ様でーす」

カタカタとキーボードを打つ音と、徐々に減っていくフロアの人と照明。

ファイルの数も減ったけれど、疲労は増してきた22時。

最後の一人が帰った所で、倉坂さんがワイシャツの第一ボタンとネクタイを外して腕捲り。

私も目が乾いてきて、目がパシパシしてきたから眼鏡に切り替えた所で目があった。


「疲れてきましたか?」

「あ。普段はコンタクトなんです。モニター見てると乾きやすくて」

「すみません。出遅れて」


出遅れて?


何の話だろうか?
少しだけ、意味が解らない。


「咲良の書類。僕が引き受けるつもりだったんですが。結局、巻き込んでしまいました」

「…………」

「まだ、その……人に仕事を頼むのは、苦手でして」

モニターを見ながら、ポソポソと呟かれているのは、恐らく“言い訳”だろう。

そう言えば、今日はやけに企画の人も残ってたし、事務の人も残ってた。

つまり、自分の仕事を皆に割り振っていた訳なんだな。

「咲良があの状態でしたから、取り上げるつもりだったんですけれど」

「仲が良いんですね」

「同期生ですし、何より大木に怒られるのは僕ですし」

大木……。

ああ、あの残業中に連れていってもらったレストランバーの……?

「大木さんに、どう関係が?」

「咲良の恋人ですが?」

「…………」

さも当然の様に言い放ちますが、知りませんからっ!

ビックリ。
とってもびっくり。
めちゃめちゃビックリですよ。

すっかり集中力が霧散して、倉坂さんを見ると、無表情と目があった。

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