ふわふわ。
シーズン
「思うに、倉坂は乙女心に疎いのよ」
「乙女心……」
「そうそう。悔しかったら雰囲気作りなさいよ」
「ムードですか? やはりムードは大切なのでしょうね」
「当たり前よ。ムードで落ちない女は滅多にいないわ。それで落ちないなら、圏外だから諦めなさい」
「嫌いではないと言われています。少しは望みがあるのでしょうか」
「微妙だなぁ。体の良い“お友達”宣言じゃないの」
微妙。
微妙と言えば。
当の本人目の前にして、そんな会話を繰り広げる倉坂さんと咲良さんが微妙だと思われる。
今日はno残業で定時上がり。
咲良さんに誘われて、大木さんのお店に来た。
すると何故か倉坂さんがいて、そんな話になった。
何故だ。
何かがおかしいとは思わないのだろうか?
何となく遠巻きに、今日のオススメらしいピザをパクついていたら、倉坂さんが私を見た。
……なんですか。
「僕は“お友達”になりますか?」
聞くかな、普通。
まぁ、そこが倉坂さんらしいということなのかもしれない。
ノーコメントでいたら、すっと手が延びてきて、親指で口許をぬぐわれた。
「やんちゃですね」
あ、ソースでもついてたのかな。
「あ、すみません」
慌ててハンカチを取り出そうとしたら、倉坂さんはそのまま親指を口に含んだ。
「…………」
「なんなのその、まだ付き合いだしてもいないくせに、その行動は」
呆れ顔の咲良さんの言葉に、穴を掘って入りたくなった。