ふわふわ。
無表情で見返す倉坂さんに、大木さんはやっと何かを感じ取ったのか、ニコニコと肩を竦めてカウンターの奥に戻って行った。
「倉坂さん……賑やかな学生時代だったのでしょうね」
「解りますか」
あれでわからなければ、大したものだと思う。
お互い一息ついてから、シェフのオススメパスタを注文した。
届いたそれは、茄子と海老のトマトソースパスタで、
「これって、てんこ盛りって言いませんか?」
一皿に二人分は乗っていそうなパスタを眺め、自分でも顔がひきつっているのが解る。
「……何を張り切っているのでしょうね。食べきれなければ、僕が食べますから、残していいですよ」
「え? 入りますか?」
「どうせ、ほとんど徹夜になりそうですから。食べきれなければ夜食に持ち帰ります」
男の人って、けっこう食べるんだな。
一人前を食べた所で根を上げた私に対して、倉坂さんは自分の皿を綺麗に完食し、お店の人に頼んで残りはパックづめにしてもらった。
その間に、食後のお茶が出されて、ある意味こってりした口のなかがさっぱりした所で気がついた。
……倉坂さんとの食事。
そんなに嫌じゃなかったな。
無言にもならなかったし、適度におしゃべりしながらのご飯は楽しかった。
食わず嫌いみたいなものしらね。
そう思いつつ覗き込んだティーカップには、一本の黒い影。
「あ。茶柱」
呟くと、
「古風ですね」
「…………」
……暗にばばくさいと言われた気がした。