ふわふわ。

「里桜さん」

「は……え? イキナリ名前?」

真剣な倉坂さんは、ツカツカ近づいてきてデスクにばんと手を置く。
置くと言うか叩きつける。

「仕事中では気分が盛り上がりません」

「え。倉坂さん、いつもそうだったじゃないですか」

「気持ちは解りますが、仕切り直しを求めます」

「無理です。私が盛り上がりながらプロポーズなんて出来るハズがないじゃないですか」

「そこはしてください。出来ないなら俺がします」

え。

いや……

あの。

プロポーズって、仕切り直しあり?


「せめて、キスと抱きしめが出来る状況下で告白お願いします」

「なんですかその計画! そうなると解っていながら、あからさまな告白なんてもっと無理です」

「それならせめて、仕事が終わってからにして下さい」

キッパリ言って、デスクに座り直すと、倉坂さんはモニターを見ながらカタカタとキーボードを打ち始める。


……切り替えた。


なんて切り替えが早いんだ。


呆然としていたら、倉坂さんが溜め息をつく。

「里桜さん」

「は、はい……?」

「今日はせめてお持ち帰りしていいですか?」

「な、なんか、あからさま過ぎてこわいです」


と言うか聞かないで!

そこは聞かないで下さい!


「大丈夫です。優しくしますから」


優しくされるとか、されないとか、生々しくて答えられないから!


答えたら答えたで、きっと困るのは私だろう。


プロポーズをしたはずなのに、何故か仕切り直しを要求されて……


何だかやっぱり宙ぶらりん。


ふわふわ、曖昧で、よく解らない私達。



「倉坂さん?」

「なんですか」

「好きです」

「知りません。聞いてません。雰囲気ないですから」

とりあえず、


こんな慌てた倉坂さんは初めて見たかもしれない。










fin 2015・1・3
< 56 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop