ふわふわ。
「里桜さん」
「は……え? イキナリ名前?」
真剣な倉坂さんは、ツカツカ近づいてきてデスクにばんと手を置く。
置くと言うか叩きつける。
「仕事中では気分が盛り上がりません」
「え。倉坂さん、いつもそうだったじゃないですか」
「気持ちは解りますが、仕切り直しを求めます」
「無理です。私が盛り上がりながらプロポーズなんて出来るハズがないじゃないですか」
「そこはしてください。出来ないなら俺がします」
え。
いや……
あの。
プロポーズって、仕切り直しあり?
「せめて、キスと抱きしめが出来る状況下で告白お願いします」
「なんですかその計画! そうなると解っていながら、あからさまな告白なんてもっと無理です」
「それならせめて、仕事が終わってからにして下さい」
キッパリ言って、デスクに座り直すと、倉坂さんはモニターを見ながらカタカタとキーボードを打ち始める。
……切り替えた。
なんて切り替えが早いんだ。
呆然としていたら、倉坂さんが溜め息をつく。
「里桜さん」
「は、はい……?」
「今日はせめてお持ち帰りしていいですか?」
「な、なんか、あからさま過ぎてこわいです」
と言うか聞かないで!
そこは聞かないで下さい!
「大丈夫です。優しくしますから」
優しくされるとか、されないとか、生々しくて答えられないから!
答えたら答えたで、きっと困るのは私だろう。
プロポーズをしたはずなのに、何故か仕切り直しを要求されて……
何だかやっぱり宙ぶらりん。
ふわふわ、曖昧で、よく解らない私達。
「倉坂さん?」
「なんですか」
「好きです」
「知りません。聞いてません。雰囲気ないですから」
とりあえず、
こんな慌てた倉坂さんは初めて見たかもしれない。
fin 2015・1・3