カルネージ!【完】
「……この前の、お返しだよ」
「むしろ仕返しだよね」
目が合ったままの彼にへらりと笑えば、阿久津は冷静さを取り戻したのか、もう不敵に笑っている。
残念、もう少し焦ってくれてもいいのに。
なんて考えつつ、特にこのあとの展開も考えていなかったので起き上がろうと布団から腕を離した。
つもりが、何故か阿久津に左手首を引かれて、今度は私がバランスを崩す。
「――うわっ」
慌てて右手をつくけれど、阿久津の顔が私のすぐ近くにあって、小さく息を呑んだ。なにこの近さ。
唇と唇の間には数センチしかなくて、少しでも動けば触れてしまいそう。
――て、それは自意識過剰だ私。さっきだって勘違いだったじゃないか。あるわけない。
阿久津と私が、せ、せせせ、接吻なんかするわけない。ないないないない。絶対ない。ないないない。
と、そう自分に言い聞かせても、この距離じゃ意識するなと言う方が無理な気がした。