カルネージ!【完】
普通すぎて怖いくらいだった。
あの、私の唇に触れた、熱く柔らかい感触は今もはっきり覚えているのに、どう考えてもキスされたのに、本当に夢だったのかもと思うくらいに阿久津は普通。
私が久しぶりの熱でうなされている間も、1週間の猶予を経て登校した朝も、こっちは胃がキリキリするほど思い悩んでいたというのに。
「……小春ちゃん」
「なに」
「小春ちゃんキスしたことある?」
訊けば、ストローを咥えて飲んでいたオレンジジュースを、彼女は気管に詰まらせてしまったようでゲホゴホとむせ返った。
大丈夫!? と慌てて紙ナプキンを差し出すけど、恨みのこもった目で睨まれてしまう。
「……普通そういうこと聞くぅ!?」
「だ、だって私の友達で彼氏いるの小春ちゃんしかいないんだよ。……で、あるの?」
「……な、……ないこともないけど」
本人はぶっきらぼうに答えたつもりなのだろうけれど、顔は耳まで真っ赤で、動揺している小春ちゃんに私の方まで赤面した。