そっと、もっと、ぎゅっと~私に限り無い愛を~
「藍子も、藍子だ・・・こんな男と付き合っているんだろう?
私はそんな付き合いは認めない…さっさと別れないさい」

「いい加減にして、お父さん」
反論する私を、大谷さんは止めた。

「お父さんのお怒りはごもっともです・・・
私が至らないばかりに、大事な藍子さんを傷つけてしまいました。

ですが、これからはそんな事がないよう、精一杯の努力をしていくつもりです」

そう言って頭を下げた大谷さん。


「お父さん、・・・いいじゃありませんか?
私とお父さんだってけんかはするでしょう?」

そう言って父の肩に優しく手を置き、母が言った。

「・・・だが」

「それにまだ付き合い始めて日も浅い事でしょうし・・・
お互いを知る為には、これからもっともっと付き合って行く事も必要でしょう?

親として、娘の幸せを、黙って見守る事も義務だと思いませんか?」

「…ふん!…勝手にしろ」

そう言った父は、手に持っていた箱を、テーブルの上に置くと、リビングを出ていった。

その箱を取った母は、クスリと笑った。

「よほど藍子が心配だったのね、ケーキなんか買ってきちゃって」
「…お父さんが?」

「貴女は私たちの前で、あまり泣かない子だから、泣いて帰って来たのが、よほど心配だったのね」
そう言って微笑む。


…そうだよね、お父さんは、私をいつも優しく見守っててくれてた。


「…矢沢、お父さんの所に行ってやれよ…俺はもう、帰るから」
「…大谷さん…あの家に、帰ってもいいですか?」

「…もちろん…突然お邪魔して申し訳ありませんでした」
「いえいえ、またいらしてください」

そして、大谷さんは帰っていった。
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