そっと、もっと、ぎゅっと~私に限り無い愛を~
「お、おはよ、大谷」

「・・・ああ」

そっけない態度に、緊張してしまう。

しかも私に視線すら合わせなくて。

・・・きっと、怒っているに違いない。


「…相変わらず、仏頂面だな」

そんな事を言いながら彬も、自分のデスクに座った。


・・・その日一日は、生きた心地がしなかった。

定時になり、明るいうちに帰れと皆に言われ、

私はそそくさと帰る事に。


真っ直ぐに修のマンションに向かった私は、

荷物をまとめ始めた。

帰ってくる前に、自分のアパートに帰ろうと思って。

…これではまるで夜逃げだ。

溜息をつき、また作業に取り掛かる。


…荷物をすべてまとめ、置手紙をする。

『今までお世話になりました。本当にありがとうございました』

たったそれだけの短い置手紙。

…それ以上の言葉なんて、何も見つからなくて。


私は右手に合鍵を持ち、左手にカバンを持って、

玄関まで歩いていく。


…ガチャ。

「そんな荷物抱えて、どこに行く気だ?」

「・・・・」

思った以上に、早く帰ってきてしまった。
< 55 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop