君にKiss 【短編】

「無理すんな。まだ寝てなよ。」


起き上がろうとする私の肩を
光輝はそっと押さえた。

私はその腕をしっかり掴む。
そして口に出したくない
言葉を喉の奥から絞り出し
光輝を真っ直ぐ見て言った。


『行っちゃうの…』


私の目からは涙がこぼれる。
光輝は何も言わず
ぎゅっと私を抱きしめた。

今までで一番強い力で……

私は光輝の温もりを感じ
言うつもりのなかった
言葉を呟いた。


『行かないで…光輝…』


いつかこんな日が来る。
その時は笑って送り出そう
そう決めてたのに…
光輝を困らせたくなかったから。

抱きしめる光輝の腕に
力が入る。
光輝の胸元を強く掴んでいた
私の手にも力が入った。

この人を失いたくない……。

そう思った瞬間
光輝の腕の力がふっと弱くなり
私から身体を少し離した。

私が光輝の顔を見上げると…
その顔がゆっくり近づき
光輝の唇が私の唇に重なった。


『…っん』


激しく長いKissの後
もう一度私をぎゅっと
抱きしめると
彼はそっと微笑んで
そして…何も言わず
いなくなった……。


私の目からはいつまでも
涙が溢れ止まらなかった。


       *
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