きっと、君を離さない
高校生に助けられる俺。
情けなし。
“大石さん”彼女に初めて呼ばれた名前。
いつも、あんたとかあなた、とか。
名前なんて呼んでもらったことはない。
でも、俺の名前知ってたんだ。
少しだけ嬉しい自分がいた。
「本当に、申し訳ありませんでした」
「わざわざありがとう。あなたは大丈夫なの?」
「はい・・・」
春香ちゃんは笑顔だ。
作った笑顔なのだとわかる。
それでも、笑顔なんて初めて見た。
笑顔だって作れるんだ。
本当の笑顔、みたいな。
「なにがいいかわからなかったので、果物の詰め合わせにしたんです」
「わあ!悠ちゃんなんでも食べるよね?ありがとう」
「いえ。では、私はこれで」
「え?帰っちゃうの?ゆっくりしていってよ」
「いえ。少し様子を伺いに来ただけなので」
そう言うと深々と頭を下げて出て行った。
閉じられた扉。
遠ざかっていく足音。
俺は、なんとなく複雑な心境だった。