きっと、君を離さない
「一度、希望を知ってしまえば。一度人を愛することを知ってしまったら・・・知らずにいた頃よりも、それを失った絶望は大きいんです」
「・・・っ」
「見ていられませんでした。あの頃の春ちゃんは。なにもかもよくなって、街を彷徨い、誰彼かまわずついて行ったり・・・。あの現場に行っては、一晩中そこで座り込んでいたり・・・」
どれほどの絶望なのか。
春香ちゃんが俺に投げかけてきた言葉たちが突き刺さる。
俺の、ちんけな言葉なんて響くわけなかったんだ。
「そんな春ちゃんを私が無理やり連れだしたんです。本当は私の家に連れていくつもりでした。でも、一人暮らしをすると聞かない彼女に、家を用意し・・・働くと言ってきかない彼女を私の店に呼びました」
「・・・そうだったんですか」
「少しずつですが、忘れようとしているんです。絶望の中にいる事に変わりはありませんが、それでもあの頃の彼女よりは・・・」
江梨子さんの声に力が入る。
「でも、今。春ちゃんはまた揺らいでます。心が、荒れて壊れかけている・・・」
「え・・・?」
「あなたと出会ったからです」
「え・・・?」
「お願いです。中途半端に関わって、彼女の心をかき乱すくらいなら。彼女の前から姿を消してください」
「・・・な」
「もう、二度と彼女が壊れる様を私はみたくないの」