最後の恋の始め方
 「やめて……!」


 全身を駆け巡る快感に耐え切れず、私は和仁さんから逃れようとした。


 当然、無駄な抵抗だった。


 掴まれた手首はまるで手錠を嵌められたように、私は和仁さんに縛り付けられている。


 「逃げないで」


 逃れるのに失敗して、背を向けたままの私に。


 背中越しに和仁さんが囁きかけた。


 「もっと素直になって」


 腕を引かれ、再び引き寄せられ、耳元に息を吹きかけるように。


 和仁さんは私に、快感を肯定するようにと魔法をかける。


 「こっちを向いて……」


 向きを変えて、見つめ合ったらもうおしまい。


 強力な磁石に引き寄せられるように抱き寄せられ、肌が熱くなる。


 吐息が漏れる。


 余計なことを考えるのも面倒になっていく。


 ただ……この腕の中で激しく乱れ、溶けてしまえたら。


 そう願いながら、波打つ甘い情熱に身を委ねていた。
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