最後の恋の始め方
 ……。


 「ごまかさないで……」


 吐息と共に言葉が漏れる。


 体は僕を受け入れ、僕の動きに合わせてその身を揺らし、十分に感じているのに。


 心から満たされてはいない。


 理恵も……僕も。


 いつものように互いにしつこいくらいに求め合うでもなく、ただ慰めのためだけに体を重ねることに虚しさを感じ。


 早々に体を離し、寝たふりをしている自分がいる。


 一つのベッドの中、二人の間にははるかな隔てを感じている。


 ……こんなはずじゃないのに。


 つまらないことで意地を張り合い、義理で体を重ね、つまらなさを感じて離れて眠る。


 どうしてこんなことになっているのだろう。


 理恵を嫌いになったわけでもなければ、飽きたわけでもない。


 やはり近付き過ぎたり、一緒に居過ぎるはよくないのだろうか。


 それとももしかして……。


 今まで理恵に対して「愛」だと信じていたものは、実は独占欲にすぎず。


 禁断愛を楽しむこと、佑典から奪い取ることだけにスリルを感じ。


 それが達成されてしまえば、もう満足してしまったとか……?


 いや、そんなはずはない。


 現に今でも、僕は理恵が愛しくてたまらない。


 側にいればいるほど好きになる。


 何度抱いても抱き足りないくらいに。
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