最後の恋の始め方
 「えっ」


 突然の山室さんの提案に、私は思わず言葉を失ってしまった。


 山室さんが何を考えているのか、意図が読めない。


 「理恵ちゃんはパスポート持ってるんだよね」


 「はい。卒業したら私も、向こうへ行くと信じていましたから」


 「そうか……。つくづくあいつは愚かだったよね。理恵ちゃんって人がいたにもかかわらず、どうして後輩なんかと」


 佑典がはっきりと理由を言わず、一人罪をかぶったような形で異国に旅立っていってそれっきり。


 山室さんは佑典を誤解している。


 私を裏切って、内山さんと誤解を招くような振る舞いをしたと思い込んでいる。


 それゆえ私は、佑典の元を去ったのだと……。


 「佑典が悪いわけじゃありません。でも……」


 「俺、二人が付き合っていた頃、お互いを想い合う姿をとても微笑ましく眺めていたんだ。二人は俺の大事な友人と後輩。できればあの頃のような二人に、戻ってほしいっていうのが本音なんだよね」


 「……」


 本当のことは、山室さんが思っている以上に複雑。


 だからそんなたやすくには……。


 「俺と一緒に佑典に向こうに会いに行って、そこで佑典と話し合うっていうのは……まだ無理かな」


 「ごめんなさい……」


 そうとしか答えられなかった。
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