最後の恋の始め方
 私……食べ物に釣られているのだろうか。


 フォークに刺した一片のフィレステーキをソースに浸しながら、ふとそんなことを考えた。


 そろそろはっきりさせなきゃとは分かっていながら、誘われるがままにこんな……。


 周囲を見渡すと、ある程度年齢のいった夫婦とおぼしき人たちが多い。


 若い男女は、私たちくらい?


 同期の中でも最も高給取りの部類と推測される山室さんでさえ、なかなか手の出ない高級レストラン。


 取引先の関係で、たまたま招待券を手に入れたから、こうして連れてきてもらうことができた。


 ……着るものにも苦慮した。


 どう考えても普段着では無理だし。


 あまり着る機会のない、スーツを引っ張り出した。


 慣れないスーツ、食べ物をこぼしたら大変なので気を遣う。


 膝の上にはナプキンを置くけれど、たまに床に落ちてしまう。


 メインディッシュを食べ終えると、コーヒーが出されて間もなくデザート。


 北海道産フルーツゼリーの盛り合わせだった。


 「理恵ちゃんって寮住まいだよね。卒業したらどうするの」


 今まで食べるのに必死で、口数の少なかった二人。


 デザートになってようやく、会話が再開された。
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