最後の恋の始め方
 「卒業後ですか。寮を出ないとならないんですよね」


 それは以前からの懸案事項。


 卒業と同時に寮からも卒業。


 それから……?


 和仁さんと一緒に暮らすのは、世間の目があるので。


 安いアパートを借りて、そこから通おうと思ってる。


 通うのには車が必要不可欠なので、駐車場付きの安くて便利な物件を探している。


 「理恵ちゃんは……本当にそれでいいの」


 「何がですか」


 スプーンでゼリーを一口すくい上げながら答えた。


 「今からでも就職。きちんとした企業でまだ募集しているところは、きっと残ってるよ」


 「え……」


 「佑典と結婚が前提での、家業手伝いならまだ分かるけど。今後どうなるか不透明なままで、佑典のお父さんの下で働くって、どこか奇異に見える」


 「そう……ですか」


 私の不自然な現状を指摘されると、やはり緊張する。


 触れられてはまずい領域に、山室さんが入り込んでこないことをひたすら願いつつ。


 このまま無事にやり過ごしたい……。
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