最後の恋の始め方
 夏休みは、ダイビングにチャレンジするとの理由で現地に留まった。


 冬休みは仏教遺跡巡り。


 暖かいところだから、冬でもマリンスポーツも楽しめるらしい。


 なかなかない機会だから、こっちで暮らしているついでに……と理由付けはしているものの。


 実際のところは、父親が自分の元カノと甘い日々を過ごしている実家になどは、戻りたくないからだろう。


 自分が蒔いた種とはいえ、胸が痛む。


 「理恵」


 僕は理恵をそっと抱きしめた。


 人を一人傷つけることによって手にしたぬくもりに、理恵は安堵感と背中合わせな罪悪感に苛まれている。


 心から満たされてしまうのは罪のように感じられて、心の奥底は常に醒めているのが分かる。


 「もう少し、時間の流れに任せてみよう」


 僕もまた、息子の恋人を奪ったという過去から逃れられないでいる。


 今のままでは誰もが、心に傷を負ったまま。


 正しい答えなど解らないまま、僕は理恵を手離すことができずにいる。
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