最後の恋の始め方
 「何でしょうか」


 佑典にひどいことをしてしまったこれまでの自分を振り返り、涙が出そうになっていたのを必死でごまかしながら私は問い返した。


 「もしも佑典がここに現れて、もう一度やり直そうって嘆願したらどうする?」


 「えっ」


 急な山室さんの言葉に、私は焦った。


 まさか山室さんが世話を焼いて、こっそり佑典を帰国させて、私と復縁させようとしているのかと思った。


 ここに突然佑典が現れるのでは、と。


 「……」


 どう対応していいものか分からず、私は硬直していた。


 もしもそこの柱の陰から、佑典が現れたらどうしよう。


 そして山室さんに、真実をぶちまけるようなことがあれば……。


 「私……」


 「本当にもう、元に戻ることは不可能だって判断してるの? 理恵ちゃんの中では」


 答えに迷っているうちに、山室さんが次の質問を投下してきた。


 「それも無理がないとは思うんだけどね。こんなことになったのも、あいつが誤解を招くようなことをしたから」


 「それは、」


 「それから半年以上離れてみて、理恵ちゃんの中では心境の変化はあった?」


 「いえ……、もう無理だと思います」


 そうとしか答えられず、私は俯いてしまった。
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