最後の恋の始め方
 「そんな」


 「目を覚ますんだ」


 「私、」


 「今ならまだやり直しがきく。未来などないだけじゃなく、周りを不幸にする馴れ合いの関係など断ち切って」


 冬の風の冷たさすら忘れて、私は街路樹にもたれていた。


 山室さんは私を、想像上の不倫関係から足を洗わせようとする。


 「俺がついている。ずっとそばにいるから」


 山室さんは私の手を取ろうとした。


 「目を覚ますんだ。そして俺と一緒に生きていこう」


 「だっ、だめです。困ります本当に。どうかもうこれ以上、」


 思わずその場を離れようと駆け出した。


 すると通行人にぶつかった。


 「す、すみません! あ……!」


 ぶつかった相手は、背の高い男性。


 濃いグレーの冬物コートを身にまとっていた。


 「こんな所で暴走している悪い子は誰かな」


 「和仁さん!」


 和仁さんだった。


 なぜここに?
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