最後の恋の始め方
 今日僕さんは、札幌市内のホテルでディナーショーの主役だった。


 なのにどうしてここに? と理恵は驚いているだろう。


 ディナーショー開催先のホテルは、幸運なことにここから目と鼻の先。


 とはいえ理恵のピンチに正義の味方が駆けつけるにしては、偶然にしては話が出来すぎている。


 「あなたは……水無月さん?」


 山室も僕に気が付いた。


 突然の遭遇に驚きを隠せない。


 「どうしてこんな所に」


 なぜただの「元彼の父親」にすぎない僕が偶然この場所に現れ、理恵がここまで動転しているか、彼は俄かには理解できていない様子。


 しかし。


 「どういうことなんだ、理恵ちゃん」


 彼は確認を求めるかのように、理恵を見つめる。


 これ以上見られたくないのか、理恵は顔を背ける。


 戸惑っているのは僕も同じ。


 正義の味方としてこの場に参上したはいいが、彼に僕と理恵との関係を悟られるのも……。


 今後のことを考えると危険すぎたかもしれない。
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