最後の恋の始め方
 「理恵、こっちへおいで」


 僕は強引に理恵の手首を掴み、こちらへと引き寄せた。


 「……?」


 山室は僕と理恵の顔を交互に見つめた。


 突然現れた僕の言動が理解できず、呆然としていたものの。


 謎と謎……複数の点が線となって繋がり始めたようだ。


 「まさか……」


 理恵が佑典を裏切った理由。


 理恵が佑典を裏切ってまでも、離れられない相手。


 それはこの世で一番佑典に近い存在であり、この世で最もあってはならない相手。


 「そう……なのか理恵ちゃん」


 「……」


 山室は察してしまったようだ。


 理恵はたまらず目をそらした。


 「正気なのか。そんなこと許されると思ってるのか」


 山室は理恵に向かって腕を伸ばした。


 それを避けるように僕は、理恵をさらに引き寄せた。


 「水無月さん。あなたはご自分が何をなさっているのか分かって、」


 「君に一言伝えておく」


 僕は山室の言葉を遮った。


 「うちの事務所は、恋愛禁止令だから」
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