最後の恋の始め方
 「私、山室さんとはそんなつもりじゃなかったのに」


 「だから。理恵はそんなつもりはなくとも、あいつは期待していたわけだから。強引な奴だったら、今頃どうなっていたと思う?」


 「……」


 考えただけでも恐ろしい。


 今まで俺を騙して、もてあそんでいたのか! と逆ギレでもされたなら。


 襲われていたかもしれないし、それ以上のことも……ストーカーと化して、命を奪われていたことだって想定される。


 山室がそういうタイプがどうかは不明だが。


 いや、理恵だけを一方的に責めることはできない。


 僕が世に認められた彼氏や夫だったならば、理恵は山室に再会した時にそれを伝えられていただろうし、事態はここまで発展しなかったはず。


 でも理恵は、僕のことを公言することはできず……。


 「それより和仁さんは、どうしてあの時、私たちの近くにいたんですか」


 山室から逃れるのに必死で、冷静になって考えるのを理恵は後回しにしていたようだ。


 なぜディナーショーを開催していた僕が、二人の前に現れたのだろうということを。


 会場から近いとはいえ、偶然にしては出来すぎているのは明白。


 「まさか私を尾行して?」
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