最後の恋の始め方
 「ディナーショーを途中で切り上げて、理恵をストーカーしに行ったんだよ」


 僕は微笑みながら、理恵の髪の先に触れた。


 「マフラーが外れてる」


 髪を撫でながら、緩くなったマフラーの結び目を直す。


 「冷たい頬……」


 たまたま触れた指で、理恵の頬が冷たくなっているのに気づいた。


 いつしか外に出てから、かなりの時間が経ってしまっていた。


 「このまま暖めてあげたいところだけど、」


 「和仁さん」


 理恵もそっと僕の腕を掴むけれど、ここは行き交う人たちが多くて。


 恥ずかしくなったようで、さっと手を離した。


 「……あの男とは銀行関連の繋がりもあるし、今後も付き合いは続くと思うけど」


 一瞬温もりを確かめた後、僕は山室の話題を再開した。


 「なんか気まずいです。私」


 「理恵は気にすることはない。好きだって言ってくる男全てを受け入れていたら、大変なことになるから」


 理恵を優しく諭す。
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