最後の恋の始め方
 「とはいえ男女の仲って難しいよね。ガードが緩いと、相手を勘違いさせてトラブルになりかねないし。逆にガードを固くしすぎると、円滑な人間関係にも影響を及ぼしたりする」


 「誤解により、相手の人を傷つけるのだけは避けたいんですが」


 「困った時は、僕に相談すればいい」


 「そしたらまた、あの男は下心があるだとか、私を狙ってると吹き込んで、遠ざけようとするに決まってるじゃないですか」


 「そうとも言えるけど」


 理恵に近寄る男を認めるはずもない僕は、包み込むように理恵を抱きしめた。


 まだ街並みを行き交う人たちは、途絶えていないのにもかかわらず。


 「私情で仕事を途中ですっぽかすような人が、私にまともな恋愛アドバイスができるとは思えません」


 理恵は腕の中で僕に答えた。


 「ああ、ディナーショーを放り出してストーカーした話?」


 「……」


 「冗談だよ。ショーが終わって一階の喫茶コーナーでスタッフの方々とお茶してたら、理恵があの男と二人で歩いていたのが見えて。慌てて切り上げて追いかけたんだ」


 「偶然なんですか」


 「偶然だからあんなに驚いたんだよ。この辺りは中心街とはいえ、僕のディナーショー会場みたいにホテルもあるし。あの男がもしかして、理恵を誘い込もうとしてるんじゃないかって」
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