最後の恋の始め方
 数日後のお昼前。


 私は和仁さんのオフィスで勤務。


 和仁さんはお昼から用事があって出かけるので、デスクに座ってその支度をしていた。


 私はパソコンに向かい画像分類の作業をしていたら突然、パソコン脇で充電中の携帯電話が鳴り出した。


 「!」


 ディスプレイには、「山室さん」の文字が……。


 電話に出るのがためらわれた。


 「理恵、電話が鳴ってるよ」


 デスクで書類をまとめていた和仁さんは、なかなか電話に出ない私に向かって言った。


 職務時間中の通話は、よっぽどひどい私用のものでなければ許可されている。


 このまま電話に出ないのも、逆に怪しまれる。


 まさか山室さんも、完全な私用で電話を掛けてくるわけはなかろうと、私は通話ボタンを押した。


 「あ、理恵ちゃん。この前はお疲れ様。今大丈夫?」


 電話の向こうの男性の声が和仁さんに漏れないよう、注意を払う。


 「はい。仕事中ですので少しだけなら」


 「これからちょっと、職場にお邪魔していいかな?」


 「えっ」


 午前中に新篠津(しんしのつ)方面に所用があって、出向いた帰りらしい。
< 30 / 162 >

この作品をシェア

pagetop