最後の恋の始め方
 「モノクロに沈んでいた世界が、再び色付いて感じたのはあの時だった。理恵に出会ってから」


 「え……」


 「もう一度光り輝く世界で、ありのままに写真を撮ってみたくなった」


 ありのままに、今の気持ちを伝え。


 想いを込めるかのように、唇を合わせた。


 「出会った時代も状況も違う、それぞれ二人の女性だから、比べられないし比べようとも思わない。ただ、一つだけ言えるのは」


 「……」


 「今、共に生きたいと願うのは、ここにいる理恵だ」


 「和仁さん、」


 「理恵だけだ」


 全ての言葉も想いも注ぎ込むかのように、強く抱きしめた。


 「本当にいいんですか」


 未だに理恵は不安そうに僕を見つめる。


 「亡くなった人を忘れられないのは、許してほしい。でも共に生きたいのは君だけだっていうことは、理解していてほしい」


 「はい……」


 了承の合図か、理恵からも強く抱き返してきた。


 全身に伝わり、受け入れられる充実感。


 全ての憂鬱を消し去ることができるくらいに、強く抱きしめてあげたかった。


 ……この温もりを手に入れるために僕と理恵は、大きな代償を払ってしまった。


 (佑典……)


 南国で初めての冬、冬とは言えないような灼熱の年の瀬を過ごしている佑典のことを思うだけで、胸の痛みを覚えるという罰からはいつまでも逃れられない。
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