最後の恋の始め方
 「俺の父親があんな有名な写真家だったら、あちこちに自慢したいところだけどね。しかも若くてかっこいいし。理恵ちゃんだったらもしも自分の父親が、あんなにイケメンだったら。あっ」


 そこまで口にして、山室さんは私に父親がいないのを思い出したらしい。


 私は別にもう何とも思っていないのに、未だに周囲が気を遣ってしまうようで。


 「私は父親がいないのであまりよく分からないんですが、水無月先生のような人がもしもお父さんだったら、大変なことも多そうです」


 「大変なこと?」


 「例えば……」


 佑典からかつて聞かされた話を例に示した。


 親子ではなく兄弟と間違えられるのは、和仁さん側からすれば嬉しいんだろうけど、佑典は複雑だったこと。


 加えてその父親は、著名な写真家。


 息子イコール跡を継ぐと周囲は勝手にみなし、その期待がむしろ煩わしく感じられたことなど。


 「そっか……。偉大すぎる父親を持った息子の苦悩って、古今東西共通だよね」


 山室さんは納得したようだ。


 「だけど理恵ちゃん、大丈夫なの?」


 「何がですか?」


 「あんな人と四六時中一緒にいて……」


 山室さんが何を言い出すか緊張した。
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