最後の恋の始め方
 「佑典の奴、大学でも父親のこと隠してたよね。まあ奴の家は遠いから、仲間でお邪魔しようって雰囲気にはならなかったけどね」


 自然と和仁さんの話題に戻った。


 「私も偶然先生と遭遇するまで、佑典からは全く聞かされてませんでした」


 「友人レベルだったら、隠し通せるかもしれないけど。あのまま理恵ちゃんと結婚とかなっていたら、いつ白状するつもりだったんだろうね」


 「折を見て、と考えていたんでしょうか」


 今でもふと考える。


 もしもあの時、和仁さんの出張が中止になって、急に帰宅してこなければ。


 私は何も知らないまま、佑典のそばに居続けることができた……?


 「それはそうと、なんか複雑なことになってるね。理恵ちゃんが春から、水無月和仁氏の下で働くとは」


 ジョッキをテーブルに置き、山室さんは続けた。


 「以前だったら、家族ぐるみで佑典の帰りを待つ、微笑ましい風景だと俺も思ったかもしれないけど。今は微妙としか言いようがないね」


 「山室さん」


 「とても佑典のお父さんには見えないよね……。あの容姿。あの若さ。二人は実の親子なんだよね?」


 私はそっと頷いた。
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