最後の恋の始め方
 「私……」


 山室さんは私の次の言葉を、黙って待っている。


 言葉が絶えると、周囲の他の客たちが騒いでいる声が響いてくる。


 このままなら山室さんの中で、佑典は悪者として定着してしまいそうなので。


 名誉を挽回してあげたいと願った。


 悪いのは私のほうだと。


 私が佑典という人がありながら、和仁さんと関係を続けたから……。


 「私……」


 なのに続きの言葉が出ない。


 私が悪者になりたくないというよりも、山室さんの和仁さんを見る目が変わってしまうことを恐れた。


 私との関係は、和仁さんの社会的地位を脅かす結果になりかねないので怖かった。


 「無理しなくてもいいよ」


 山室さんは少し私の方に近づき、頭を撫でてくれた。


 「俺があまりに佑典を悪く言うから、やめてほしくて、理恵ちゃんが悪者になろうとしたんだね。無理に理由を探さなくてもいいよ」


 「違います、私……」


 「ごめん。事情はどうあっても、佑典のことを一方的に批判するのはやめにしよう」


 山室さんは勝手に結論付けてしまった。
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