波音の回廊
 カタッ。


 向こうの、当主夫妻の館のほうから物音がした。


 「父上が七重の不在に勘付いたのでは?」


 「いえ、夜勤の衛兵か侍女でしょう」


 「どっちにしても危険だ。そろそろ戻ったほうが」


 「そうね……」


 別れ際に。


 「七重、愛してる。絶対あなたを俺のものにしてみせる」


 「期待してるわ」


 最後に熱いキスを交わして、二人は離れていった。


 そして辺りには、再び沈黙が戻った。


 やがて虫の声が響き始めて……。


 「清廉……」


 沈黙が怖くて、私は恐る恐る声をかけた。


 この世の終わりのような顔色をしている。


 「清廉、そろそろ部屋に戻りましょう」


 ぴくりとも動かないので、着物の裾を引っ張った。
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