波音の回廊
 「……」


 清廉は答えられなかった。


 「清廉。まさかお前……。七重を陥れる目的で、根拠もない噂話を私に聞かせたのではないだろうな」


 「そんな……!」


 「お前が七重を避けているのは知っている。だから彼女を貶めるために、わざわざそんなくだらない話……」


 「違います!」


 「だったら根拠を述べろ」


 「……」


 清廉は兄を守りたくて、口を閉ざした。


 だけどそれは、逆効果だった。


 「自分の好悪感情に踊らされ、人を悪く言うようなことは……」


 「父上は何も分かっていない!」


 「清廉!」


 当主が息子である自分より、寵愛する七重を庇ったとみなした清廉は。


 感情を爆発させて、当主の部屋から飛び出していった。
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