波音の回廊
 「若様!」


 じいの呼びかけも、すでに清廉の耳には届かなかった。


 「じい」


 当主がじいを呼び寄せた。


 「私は、清廉を見ていると感情が波打つ」


 「殿……?」


 「あいつは、外見は亡き妻によく似ている。だが性格は……。若い頃の私にそっくりなんだ」


 当主ははじめて、気持ちをじいにさらけ出した。


 自身も若き日々、亡き先代に反発して。


 実現不可能な理想論ばかりを口にして、そのたびに先代と対立していたと。


 しかし自分が当主の座に就いてみてはじめて、先代の大変さが、身にしみて理解できたと……。


 理想論だけでは、人々を治められないのだということも悟った。


 そして時は流れ。


 キャストが入れ替わり。


 保守的な自分が、理想に走りがちな後継者を叱り付ける立場になった。
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