波音の回廊
 自分は苦労して、現在の地位を築いた。


 なのに苦労知らずの息子は、現実をよく見ず理想論を振りかざして反抗する。


 それに対し無性に腹が立って、また息子を叱ってしまい、さらなる反抗を招く……。


 「殿。そのような話、あらゆる家庭の父と子の間で、ありふれたものでございます」


 「じい……」


 「若様もいずれ、当主となったあかつきには、きっと殿が申されていたことを理解してくださると思います。ですが少々、殿は若様に厳しすぎます。時には温かい目で見守って差し上げるのも……」


 「あいつを厳しく鍛えねば、清明に申し訳が立たぬ」


 「殿?」


 「清明は年齢のみならず、能力もむしろ清廉よりも上なのに、側室の子との理由で後継者の座を断念させられた」


 「それが世の慣わしですから、仕方のないことです」
< 110 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop