波音の回廊
 「能力があるにもかかわらず、生まれゆえ後継者の座を絶たれた清明に対し、清廉は生まれながらの後継者だった。それゆえ努力して何かを手に入れるという執着心が、清廉には足りないような気がする」


 「若様は、慎み深い方ですから。そして人に気を遣いすぎる面もありまして」


 「支配者たる者、時には大胆な決断を余儀なくされることもある。清廉はあまりにおとなしすぎて……」


 「殿。若様がこの島の当主となられるのは、まだ先のことでございます。焦らず温かい目で見守ってくださいませ」


 「そうだな……。じいの言葉を信じてみるとするか」


 当主は、清廉が清明に比べるとたくましさにかけることを、かなり心配していた。


 最近清廉が、自分に対して反抗的な態度を取るので、どう対処していいものか悩んでいた。


 とはいえ年若い清廉が、年齢を重ねるに連れて次期当主に相応しい風格を兼ね備えるようになるのだと、信じていたのだった。
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