波音の回廊
 しばらくキスを繰り返した。


 食事台の脇に置かれている大きな鈴があって、酒のお代わりなど用事がある時だけ、それを鳴らして侍女を呼ぶ。


 鳴らさない限りは、誰も来ない。


 ただ部屋の中で、アルコールランプのような形の灯の火が揺れていた。


 そして。


 いつの間にか影は一つになり、毛皮の絨毯の上で体は重なっている。


 「私が怖い?」


 「怖くはない……」


 「言葉とはうらはらに、表情には不安が見て取れる」


 不安。


 それはこれから起こりうることに対してと。


 そうなることによって、ますます離れがたくなってしまい、後から余計苦しまなければならなくなることに対する怖れ。
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