波音の回廊
 「父上……」


 清廉は悟った。


 父は七重に洗脳されている。


 何を言っても、自分を信じてくれないと……。


 「お前も常日頃から、そんな機会を狙っていたわけではないのだろう? 泥酔してつい、気持ちが大きくなってしまったのだろうきっと」


 「父上、酒は関係ありません。私は七重の部屋を訪れた頃はまだ、酒は一口も飲んでいませんでした」


 酒……。


 (そういえば昨夜は、かなり深酒をしてしまった。その辺りも記憶が混濁している)


 「とにかく、私はお前を罰するつもりはない。数日間謹慎を命じる程度に留める」


 「……」


 当主は侍従たちに囲まれて、館に戻っていった。


 清廉は一人、庭園に取り残された。
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