波音の回廊
 ……。


 先ほどの花火集団から離れ、私は再び一人きりになった。


 浜辺に佇むと、変わることなく打ち寄せる波音が響き渡っている。


 思えばこの海は、太古の昔から変わっていない。


 陸上でいくつもの文明が栄え、滅びようとも……この海だけは不変。


 寄せては返す波は、何事もなかったかのように時を刻んでいく。


 (もしも……)


 私は海に願った。


 (もしもあなたがかつて、幻の島を見ていたのならば……。一瞬だけでいい。その姿を私に見せてほしい)


 と。


 その時だった。


 満月が南中を迎えた、その瞬間。


 辺りが一瞬、金色に光った。


 私は眩しくて、思わず手で両目を覆ってしまった。
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