波音の回廊
 「よかった」


 清廉は急に私を抱き締めた。


 「いつも結論を避けられていたから、本当は嫌なんじゃないかと思って心配だったんだ。最近私の地位が、いっそう不安定になって来ているし。逃げられるんじゃないかと思った」


 「嫌がってたわけではなくて。ただ……」


 あの伝説のことを考えて、不安だっただけ。


 「私はあの日、浜辺で倒れていた瑠璃を見つけた時、まるで綺麗な桜貝を見つけた時のように、胸がときめいた」


 「清廉」


 清廉の体は、華奢に見えて結構力強い。


 その腕の力の強さが、私を安堵させる。


 キスも、最初は緊張したけれど、今ではそれぞれの唇の熱を確かめ合わないと、逆に不安になる。


 抱き締め合うと、互いの体温が上がる。
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