波音の回廊
 「私は……、そんなもの知らぬ!」


 それは、毒草を砕いた粉末だった。


 しかも当主一族にしか調合の仕方が伝わっていない、秘伝の毒薬。


 「若様もご存知のとおり、これは下々の者は目にすることのない毒草です。なぜこんなものがここに隠してあるのですか?」


 「だから……、私は何も知らない……」


 「証拠隠滅の可能性があるので、お堂に監禁せよとの七重さまのご命令です」


 「七重、まさか……!」


 清廉はこれが、七重の企みであると察知した。


 (父上の暗殺未遂事件を悪用して、邪魔者である私を? いや、事件そのものが、全て七重の陰謀……?)


 「若様!」


 清廉は衛兵の手から逃れ、部屋を脱出しようとした。
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