波音の回廊
 「じい!?」


 開かれた戸の中へと、じいは崩れ落ちた。


 「若様、お逃げください……」


 虫の息にもかかわらず、じいは這って清廉のほうへと近づいてくる。


 「じい……」


 「お逃げください……。あの女が、全ての元凶……」


 とだけ言い残して。


 じいは息絶えた。


 「……」


 恐る恐る、清廉は顔を上げた。


 太刀を片手に、返り血を浴びた清明が戸の側に立っている。


 「兄上、いったいなぜじいを」


 「俺はいつの頃からか、間違いに気付いていた」


 清廉の質問には答えず、清明は一方的に喋りはじめた。


 「世が世なら、長男であるこの俺が、次の当主たるべき存在のはず、と」
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