波音の回廊
 「兄上……?」


 清明は悪い冗談を言っている。


 清廉はそう思い込もうとしたけれど到底、悪ふざけをしているような状況ではない。


 「母親の身分が低かっただけで、俺は何もかもお前より下に位置づけられた」


 清明は憎しみのこもった眼差しを、清廉に投げかける。


 「俺は今までも、これからも、お前に万が一の事があった場合の代用品だ。そしていずれ、お前に跡取り息子が生まれでもしたら、その時点で俺の役目はおしまいだ」


 「……」


 「そんな運命に飽き飽きしていたら、お前は勝手に自滅してくれた。これからは俺の時代だ」


 そう宣言して清明は、清廉の足元に小刀を放り投げた。


 「拾え、清廉。それはお前が使う小刀だ。切腹する際に」
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