波音の回廊
 カシャーン!


 「兄上、おやめください!」


 「さっさと死んでくれたら、やめてやるよ」


 刀の刃が、何度もぶつかり合う。


 だが形勢は歴然としており、清廉は防戦一方だった。


 「兄上は七重に騙されているのです! 目を覚ましてください!」


 「黙れ! この期に及んで七重に、罪をなすりつけるつもりか」


 清明は全く聞く耳を持たなかった。


 「お前なんか、消えてしまえばいいんだ」


 そう呪文のように口にしながら、清明は斬りかかって来る。


 「お前がいなくなれば、何もかも俺のものだ……」


 「兄上、目を覚ましてください!」


 「うるさい! お前なんか死ねばいいんだ。お前がいる限り、俺の人生は陰の中から抜け出せないんだ!」


 兄に存在を完全に否定され、清廉はこの上なく悲しかった。


 だが身を守るのに必死で、悲しんでいる余裕などなかった。
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