波音の回廊
 「あ……」


 最初は清明は状況を把握できていなかったが、自分の血がポタポタ床に落ち始めたのを見て、ようやく現実を悟った。


 「まさかこの俺が……」


 急速に体力は失われ、清明は膝をついた。


 「ふ……。これが神の思し召しというやつか。出すぎた真似をする者には、やはり天罰が下るんだ」


 「兄上!」


 清廉が駆け寄り、抱きかかえるより先に。


 清明は床に崩れ落ちた。


 「兄上、何てことに! 医師を……」


 「手遅れだ」


 そう言って微笑む清明の顔には、もはや憎悪の色はない。


 死を目前にして、かつての気持ちを取り戻したのだろうか。


 「兄上、私は……」


 「いや……。俺が悪かった……」


 「これだけは分かってください。兄上、私は父上を殺そうとなどしておりません。そして兄上は、七重に騙されて踊らされていたのです!」


 「とっくに分かっていた」


 清明から意外な答えが返って来た。
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